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Seven Devil's Loop

18日分の日記で書いたトレイルに19〜21日を費やして出かける。同行するのは僕と同様前セメスターで学校を卒業し、次のステップの準備しているTさん。Seven Devil's Loopと呼ばれるトレイルは一周27マイルだが、ちょっと遠回りするので合計30マイルくらい(約48キロ)。3日間の予定でトレイルを反時計回りに歩く。トレイルから目に入る荒々しい岩山たちには、それぞれDevil's 〜という名前が付けられ僕らの目を楽しませてくれる。体力に余分のある間にアップダウンの厳しいエリアを先に終え、比較的楽だと思われるあたりを後に回して先送りする作戦。

出発は18日水曜日。Moscowから車で南に2時間半ほどにある小さな街Riggins、さらにそこからダートを 45分ほど西に進んだHell's Canyonへ向かう。Windy Saddleというキャンプグラウンド兼トレイルヘッドに到着したのは午後6時半ころ。Moscowは空が高く晴天で気持ちが良かったが、このキャンプグラウンドは名前の通り風が強くて肌寒い。Tシャツ一枚の軽装から、慌ててフリースとジャケットを着込んだ。まだ辛うじて夏の雰囲気を残す下界と違って、標高約2300メートルのこの場所は完全に秋の様子。

この日は始めから歩くつもりはなかったので、テントを素早く張って食事の支度。ひと月前なら8時半でも明るかったが、今では7時を少し回るともう暗い。季節の変わり目を体感する。僕らの予想を超えてはるかに寒かったが、それにも負けずに焚き火をしてビールをあおる。その焚き火で炙ったチキンが美味しかった。10時には寝る。

19日。トレイルをスタート。キャンプ予定地はそう遠くはないので、ゆっくり支度をして9時半に出た。久しぶりに重たい荷物を背負い足が重たい。直前にひいてしまった風邪が直りきっていないのも、体に負担をかけた原因だったかもしれない。アップダウンが激しいトレイルを何回も休憩しながら進み、午後3時半にキャンプ予定の湖へ。すぐにテントを設営し、そこから45分ほどかけて展望台までの山道を登った。このHell's Canyonは何気にアメリカで一番深い渓谷だったりする。つまりはGrand Canyonよりも規模がデカイと言えなくもないのだ。2000メートル下にSnake Riverが横たわっているのが見えた。夏場はこの川でのリバーラフティングが盛んでもある。

キャンプに戻ってこの夜も焚き火。荷物になるにも関わらず持ってきた缶ビールを開ける。薪をかき集めてかなり高い火柱を上げた。日が落ちると急激に気温が下がったが、うなりを上げて揺らめく炎のそばに座っていたら寒さもそう気にはならなかった。Tさんと色々しゃべって時間が過ぎていく。前日と違い、風も出ていなかったので過ごし易い。10時に寝袋へ入る。炎の赤外線で体がポカポカする。

20日。2日目。前日と比べてテントの中が暖かかったのでぐっすり眠れた。ふくらはぎと腰の後ろに筋肉痛。両肩も痛い。体を鈍らせないためジョギングを継続している僕だが、やはり使う筋力が微妙に違うようだ。コーヒーを沸かして飲み、8時半に出発。膝を痛めたTさんにサポーターを提供した。僕は夏の旅行で左足首を痛めている。実を言うといまだにその違和感が残っていて少し心配していたのだが、これなら何とかなりそうだ。午前中は少し天気が悪く山にはガスが立ち込めていたが、午後になると太陽が顔を出した。歩いていると汗が出てくるが、一たびパックを降ろして休憩すると今度は風に当たって寒くなる。歩きやすいと言えばそうだが、これでは何を着てよいのか迷ってしまう。相変わらず鼻声で鼻水も止まらないし、治る風邪も治らないよ。

トレイル上は初日に感じたとおり完全な秋の景色。感覚的には秋の遠足。途中非常にわかり難いジャンクションで道に迷う。僕が夏に行ったトレイルとは違って人出が少ないので、そのあたりが不親切だったりする。またSeven Devil's Loopでは水の補給箇所が限られていた。そう考えると如何にJMTが歩きやすかったかを実感する。コースは長い登りが続いた。黙々と歩くが思っているほど距離が延びない。5時半にストップ。既にキツイ場所をクリア済みと思っていたので、そのギャップがあってこの日はかなり疲れた。3日間で余裕で終わるだろうとタカをくくっていたが、この調子では4日を費やすのか、と覚悟したくらい。ひと月半ほど前は、もっとアップダウンの激しいトレイルで、より長い距離に加えてより重たい荷物を背負って歩いていた。自分で言うのも何だが我ながら大した物だな。

キャンプ地はループトレイルの最南端部分。2 人とも疲れていたので食事を多めに取りたかった。しかし水場がないこのキャンプ地では、飲み水をセーブしなければいけない。フリーズドライをそれぞれ一袋と前日余った行動食で間に合わせた。やはり大きな焚き火をする。二人とも基本的に焚き火好きなので、これはこれで立派な暇つぶし。焚き火職人かと思うほど、きれいに薪を燃やし尽くした。元々あったファイアーリングが小さく物足りないので、臨時拡張工事まで施してしまった。焚き火はそれまでで一番大きく体も温まったが、場所的には非常に寒い。満月に刺激されてか、野生動物が遠吠えしてちょっと怖い。風でテントがガサガサ揺れるので、いちいち神経が過敏になってしまう。10時半にはテントに入ったが、夜中の1時にようやく眠りに着いた。

9月21日。3日目。前日は午前1時にようやく寝たにも関わらず、3時には目を覚まし、それから明け方まで眠れず。フリースを2枚も重ねているのに寒くて眠れなかった。しょうがないのでTシャツをその上に重ね、やっと明け方までウトウトする。結局ダラダラ8時までテント内で過ごす。というか寒くて外に出られなかった。勇気を振り絞ってファスナーを開けて寝袋から這い出ると、ボトルに残った水が凍結していた。霜も降りている。これじゃ寒くて当たり前だ。この朝は水がほとんど無いので、飲み物で体に暖を入れる事は出来なかった。出来れば早く出発したかったが、結局歩き始めたのは9時半。

車をとめたスタート/ゴール地点までは11マイル。前日と同じくらいの距離だが、登り降りが緩やかなので快調に進む。歩き始めると体も温まってきた。しかし問題なのは水場が極端に少なかった事。スタートした時点で残りの水は200ミリリットルほど。水を補給しようと地図上では川が流れてる地点に着いても、肝心の川が干上がっている。このように普段は水がある場所を何箇所も通り過ぎていった。涼しい今の季節だから平気だったが、真夏にこのトレイルを歩いたら死活問題だったかもしれない。結局湖から流れ出る川にたどり着いたのは、出発してから4時間も経過した後だった。

ゴール直前、何でこんな厳しいトレイルの切り方をするのかと思うほど登りが大変だったが、予定通り午後3時半にゴール。大きくぐるっと一周し、スタート地点に無事戻ってきた訳だ。Tさんの車に残されたビールで乾杯。この達成感を感じる瞬間は何物にも替えがたい。彼は途中膝の調子が芳しくなかったが、それでも何とか後半を乗り切れたようだ。

2002年の夏を締めくくった気がする。これから先の人生で、何日間も世界から離れるこのようなハイキングは出来ないように思う。そう思うと、何か大事な物が指の間から零れ落ちてしまうようで寂しく感じる。早くも傾いている太陽を眺めながら少し感傷的になった。冷たい風が肌に当たる季節になると思うものが多い。手を伸ばしても届かない僕の指先で、綿毛がフワフワと風で運ばれていった。

▼2002年 9月25日 (Wed) -- No.[8

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