犬は小型のブルドック
▼2002年11月20日 (Wed) -- No.[454]
しばらく前の週末の出来事。
僕はいまだにタバコを辞められない。その日も例に漏れず、外でタバコを吸っていた。雨が微かに降り続き、少し肌寒い日だった。あと数週間後には、何の躊躇いもなくこの雨が雪に変わってしまうのだろう。当ても無く目を伸ばすと、犬の散歩をしている女が視界の片隅に映った。犬は小型のブルドックだ。こんな雨の日にご苦労だなと思いながら、僕はタバコを揉み消す。
数時間後、再びタバコに火を点けに出る。僕はタバコにニコチン以外の意味を見出してしまっている。この習慣を変えるのにもう少し時間がかかるかもしれない。何も考えずに煙を燻らす。すると先ほどの女と犬が再び目に入った。女は赤いスウェットを着ているが、それだけで寒くはないのだろうか。犬もこんな雨の日には、外を歩きたくないのだろうに。相変わらず天気は優れない。余程犬の散歩が好きなのか、と思いながら吸殻を捨てた。
日が落ちた。夕食後に胃袋を鎮めるため、やはりタバコを吸いに出る。タバコの良い所は、他人に「タバコを吸っている男がいる」と写ることだ。僕は煙を吐き出す行為のみ集中しているのではない。何も考えずに空間を見つめている場合もあるし、何かしら考えごとをしている場合もある。もし何もしないでぼんやり空を眺めている男が居たとしたら、99%の人間はその男に対して疑惑の念を抱くだろう。この男は何をしているのだ?、と。
僕は腰を下ろしてぼんやりと外を眺めた。街灯に照らされた塗れた路上。あの赤いスウェットの女とブルドックがトボトボ歩いていた。余程僕のタバコのタイミングと合うのだろうか。それにしても、ここまで偶然が重なり必然的に奇妙に感じる。その時点で最初に彼女を見かけてからもう5、6時間は経っていた。まさかずっと散歩を続けている訳ではあるまいし、と疑問に思いつつも部屋に戻った。
ビデオを見て数時間が過ぎた。映画の余韻を楽しむようにタバコを吸う。時刻は既に12時を回っている。日曜のこの時間(正確には月曜)に外をうろつく人はまずいない。ただし、その散歩の女をのぞいて…。日付が変わったのにも関わらず、彼女とその犬は、最初に見かけた時と全く同じ場所を、全く同じ格好で、それに全く同じペースで、傘を差しながら歩いていた。まるでその場所を永遠に行ったり来たりしているかのように。
その時以来、女と犬を目にすることは無くなった。あれは一体何だったのだろう。