中野パペラ(その4)
▼2003年 3月20日 (Thu) -- No.[477]
2003/03/15(土)「中野パペラ」続き
コーヒーのアロマを楽しんでいると、意外なモノまで刺激してしまった事にふと気が付いた。俺は異様にウンコの出が良い。そう、大量のスパイスにより胃だけでなく大腸まで刺激を与えてしまったのだ。俺の下腹部が悲鳴を上げつつある。俺はスポットライトの当たる華やかなステージで歌うアイドルさえする、例の行為に席を立とうとしたが、思うところがあって留まった。いやダメだ。まだ「練り」が足りないぞ。下から出すなら上から爆発させた方がまだマシだ。
その波が収まった俺は静かに、しかし威厳あふれる足取りでみたびカレーを取りに向かう。何時の間にか店内に流れていたBGMが終わっていた。あまりにカレーに集中していたせいか、俺はもはやランチタイムが終わりに近づいている事をようやく悟ったのだった。壷に残されたカレーは底が覗けるほど少なく、それまで幾重にも積み上げられていたナンも見当たらない。
ホホゥ…敵は「品切れデス作戦」と来たか。どうやらアチラさんの持ち駒が無くなったようだな。顔の濃いスタッフは、残されたサフランライスとカレーをありったけ食おうとする俺に対して怪訝な視線を送っていた。さらに俺はミルクティーにまで手を出すしまいだ。「まだ食うのか(怒/驚)」、そんな心の雄たけびが今にも野郎の喉から飛び出してきそうだ。いかにも早く店内から客を出して休憩をしたい、という魂胆が見え見えなんだよ。この時点で勝負は付いたと言える。そんなスタッフに対し、俺は最後のとどめをさす。「すみません、ナンが食べたいのであと2枚ほど焼いて頂けますか?」丁寧な言い回し。コレでどうだ。
そう言ってからヤツの反応を注意深く探ってみた。凝縮された緊張があたりを包む。…もう彼の目には、俺に対するギラギラした敵意の眼差しは含まれていなかった。「ショショウお待ちくださヒ」。最後は奇妙な日本語を使い、同時に目はどこか泳いでいるように中空を漂っていた。俺の言いなりに為らざるを得ないという認めたくない事実を、ヤツはプライドを殴り捨てて消化しようとしているのだ。
俺は「お前のせいじゃないんだぜ…」という武士の情けが込められた視線を送った。するとヤツは「(ウルドゥ語で)アリガトウ…」と言ってきた。こういう世界に住んでいる俺たちは、言わば似た物同士なのだ。経験を積めば積むほど互いに感じる部分は似通ってくる。俺たちの心が通じた一瞬だった。
しばらくしてヤツは優雅に最後のカレーを楽しんでいる俺の席まで、そして俺だけの為に、焼きたての香ばしいナンをサーブしにやってきた。彼はどこかほっとした表情をしている。そのプロ魂には敵ながらアッパレだ。俺は猛烈に感動したぜ。その安らかな笑顔を見ただけで、ここまで足を運んだ甲斐があったというもんだ。俺はそのスタッフ、そして手に汗握る時間をプレゼントしてくれたこのレストランに敬意を払うため、米粒一つ、キーマのひき肉一粒まで残さず皿を片付けてやった。腹も心も大満足だ。
コーヒーで腹を収めてから席を立つ。再び流暢な日本語に戻ったスタッフが「お忘れ物はございませんか?」という暖かい一言をかけてくれた。「忘れ物?思い出だけだよ…。」と俺は言い残し、彼の視線を背に、それまでの1時間半を思い出しながら外へと続く階段を上がる。「88点。」俺が静かにそう呟くと、まだ日が高い中野の雑踏は、少しだけ春が近づいたように感じられた。(終わり)
後書き
実話が90%のフィクションです。いつの間にかとても長くなってしまった文章ですが、これは最近BBSにも書き込んでくれているカトー君が創り出すテキストに触発されたものです。彼のウェブページにはこんな感じの文章が沢山あるので、ぜひ行ってみてください。個人的にかなり好きな文体です。でもこういうのって書いてて難しいね。アドレスはこちら。ついでにここで扱った「中野パペラ」のウェブページはこちらなので、興味のある人は是非どうぞ。