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総武線

▼2003年 3月31日 (Mon) -- No.[481]

午前8時18分、JR中野駅5番ホーム、総武線西船橋行き。もはやルーティーンになりつつある、「満員電車」という名の戦いが始まろうとしている。ここから会社のある山手線五反田まで凡そ25分。10ラウンドにまたがる短期戦だ。

この勝負の良い部分は、階級制であるところに尽きるだろう。総武線は中野からも始発が出ている。しかしバンタム級の俺にとって、ひと気の少ないミニマム級(始発電車)じゃぁパンチの差は歴然で勝負にならない。満員電車というルールのある戦争に身を置く俺にとっては気が引けるってもんだ。その為俺は、敢えて強者どもが目を血走らせて乗り込んでいる、三鷹始発の車両に身をゆだねる事にしている。義理と人情。正義と悪。法学部出身の俺はこういうところで律儀深いんだ。

ところでこの総武線がバンタム級なら、埼京線、あれこそヘビー級だ。ベルトを統一してやっても良い。さすが「サイキョウ」の名に恥じることはない。百戦錬磨の猛者どもがワンサカいやがる。無策な女などが乗り込んだら、3秒後にはケツにアッパーが飛んでくる無法地帯ときている。ウム、これじゃぁタチが悪いのも頷けざるを得ないな。俺は過去に一度だけ栄光のベルトを返上し、朝の埼京線に立ち向かった事があった。しかしアレには参ったぜ。背骨がポックリ折れるかと思ったあの衝撃は、今ではトラウマと化しているほどだ。情けねぇったらありゃしねぇ。背後からの強烈なバッティングに、俺は思わずシートに並ぶヒザに突っ伏す寸前だった。その時は俺の鍛え上げられた背筋が勝利を収めたとは言え、ダウンしたら二度と立ち上がれないのがこの世界。その後に待ち受ける灰のような人生などまっぴらだ。しかし!いつまでもそんな記憶に苦虫を噛み潰している暇など元々持ち合わせていない。俺は常に人生を行き急いで来た。これからもそれは変わらない。いや、変われないのだ…。

強化策その1、俺はまず、このバンタム級で自信を取り戻すと同時にスピードを倍増させる。その2、ミドル級(山手線)でパワーを付ける。その3、スタミナは毎日のロードワークだ。そして体脂肪率5%の肉体を作りあげた時こそ、再びあの忌々しい統一ヘビー級に挑んでやろうって寸法よ。目指すベルトは視界に入っている。ひとまず俺の課題はこの「中野ラウンド」から道のりで基礎を徹底させる事だ。え?何だと…?

出直して来やがれ!「ラウンド」=「駅」に決まってるじゃねぇかヴォゲー!俺は高円寺ラウンド方向に視線を送った。朝の日差しで照らされ立ち上る熱気の中で、太陽よりも光り輝く黄金の車両が見えてきた。体温が0.2度上昇する。揺らめく空気の中で、その姿は除々に大きくなって行く。俺は数秒間目を閉じて「勝ち」をイメージした。いよいよだ。黄色い線の内側に立つ俺が目を開けるのと、電車がホームに滑り込んできたのはほぼ同時。そして気づかぬ間に力が入った首筋をポクポク鳴らして解し、腹式呼吸で息を整える。
リングアナの絶叫。「5番線電車がトウチャク!」、狂ったように響くその声がゴングだ。ファイッ!(続く)

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