この世界じゃ誰もが一度は己に抱く疑問である。チーズバーガーはだめだ。女子供も知ってる。馬と鹿でも知っている。満腹中枢の強敵であるチーズに挑むほど、この俺様は狂ったピエロじゃないぜ。
過去にハンバーガーを5つまで食べた記憶がある。それは駅前のマクドナルドに流し目を送った時、俺を突如襲った強迫観念であった。「オイ兄弟、それは作られた思い出なんじゃないかぃ?」俺は居ても立ってもいられなくなった。この苛立ちを過去にも感じたことがある。あれは中野でパキスタンカレーに挑んだ時だ。虫唾が走る。俺の背中に伝わる何か、これは冷や汗か?俺は不安にさえなった。
ばーろー(作者注:馬鹿野郎)、ならばはっきりさせてやろうじゃねぇか!吸い寄せられるように自動ドアをくぐる。店内でトライするのは野暮ってもんだ、見せモンじゃねぇぜ。勝負は一人で行うものだ。記憶の片隅にある5という不吉な数字を払拭せねばならない。地球シュミレータ並み脳内コンピューターが弾き出した用意すべきバーガーは6つ。我ながらタフな計算だった。
俺:テイクアウトでハンバーガー6個下さい。
女:しっくすばーがーぷりぃーず!
ハニカミの貴公子と呼ばれる俺に、見るからにイノセントな少女がその正体を現してしまった挑発的な言動。これが俺の闘争心に火を点けることになった。ヲイ!誰かガソリン持って来い!決めたルールはひとつだ。水以外でのどを潤さないこと。俺はSEIYUでミネラルウォーターという名のガソリンを買い求め、強風に逆らって屋敷へ戻る道を歩む。子供服専門古着屋の脇にある大木が、ヒューヒューと不気味な音を立てた。グッドスタートだ。こんな時の礼として、俺はここぞとばかりにハニカンでやった。
屋敷に戻った俺はカウチに腰を沈め、これから胃袋に納まる哀れな運命にあるバーガー達を目の前に積み上げる。おっと忘れちゃいけねぇ、勝負は楽しんでやるものだ。今日の生贄は映画「Godfather」。ドン・コルリオーネが俺の生き証人とは、いかにもおあつらえ向きだ。フフッ・・・、嵐の前の静けさか。そうだ、この一瞬のために俺は生きている!映画のスタートは満月と同じだ。狼に変身した俺は、バーガーで築いたピラミッドを一気に崩しにかかった。
1個目、2個目、3個目、余裕のヨッチャンでバク食いする。続けて何も無かったかのように4個目に手を伸ばす。初めてウォーラー(作者注:water)で一息つき、この手で引き裂かれた包装紙をゴミ箱に投げ捨ててやった。味わうのも大切だ。Henry Manciniがそのメロディでかもし出す叙情。シシリー島を思いながら俺は目を閉じた。ケチャップの甘みとピクルスの酸味に乾杯!
時間との勝負という側面もある。一見いたいけだった少女が俺にバーガーを手渡した時から、時間が経てば経つほどバンに水気が伝わり、味が落ちてしまう。そして勝負も味気なくなっちまう。「味」と「勝負」を引っ掛けた訳だ、俺もうまい事を言うぜ。まだまだ余裕と自分を鼓舞させる。
5個目、やはり歴史は間違っちゃいなかった。この因縁の数字と対峙すると、俺の胃袋が拒否反応を示し出した。しかし俺の意思も間違っちゃいない。俺は今日二度目のハニカミ。ここが勝負の境目という動物的感で、ゥオーラー(作者注:water)で一気に胃袋へとオサラバだ。
ここからは思い出との戦いではない、自分との勝負だ。最後に残されたひとつ。こいつが喋れるとすれば、一人でシマに乗り込んだ俺に最初は生意気な口を叩くが、俺が見せる超人的強さで全ての仲間を失ったチンピラのように、命乞いの台詞を吐くに違いない。冷酷な黙殺がヤツを襲う。そして映画でドン・コルリオーネが襲撃されるのと同時に、俺は6個目を食い終わったのだ。これで終わった・・・。
そういえば映画で5発の弾丸を受けたドン・コルリオーネは、その重傷にも関わらず復活して見せたっけ。ん?5発?6発受けた俺の胃袋も、まだまだ死んじゃいねぇぜ!
開け放った窓から吹き込む風が、少しだけやわらかくなったように感じた。タバコを燻らして外を眺めると、それまでどんよりと大空を覆っていた雲から一筋の光がさしていた。新たな志が俺を焦がす。それは新たな戦いへと俺をいざなうインビテーションなのかもしれない。ハードでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。(終わり)
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これは97%くらい実話です。6個のハンバーガーを食べたこの後の僕は、すぐに気持ち悪くなったけど、胃薬とコーヒーで何とか落ち着かせて映画に戻ったのです。普通に書き出したら妙なハードボイルド短編になってしまった。実家からぱくってきたデジカメでハンバーガーの写真を撮ったんだけど、うまくPCに転送できなかったのが残念。
過去のエントリーより
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